心の不調に使う漢方薬|補中益気湯・抑肝散の効果と合わない人

「病院に行くほどではないけれど、なんとなく元気が出ない」「イライラして眠れない」「胃腸の調子と気分が連動している」——こうした心身の不調は、検査で異常が見つからないことも多く、どこに相談してよいか迷いやすい領域です。漢方薬は、こうしたはっきりした病名がつきにくい不調に対して、体力や体質、症状の出方に合わせて処方を選ぶという考え方をとります。

このページでは、心の不調に対してよく使われる漢方薬について、期待できる働き、効果が出るまでの目安、注意すべき副作用、そして「合わない人」の特徴までを整理します。

心の不調に漢方薬が使われる理由

不安・不眠・イライラ・倦怠感といった症状は、精神的な要因だけでなく、睡眠不足、胃腸の不調、ホルモンの変動、疲労の蓄積などが重なって生じていることが少なくありません。漢方医学では、これらを「気(エネルギー)」「血(けつ)」「水(すい)」の巡りの乱れとしてとらえ、症状そのものではなく症状を生んでいる体の状態に合わせて処方を組み立てます。

そのため、同じ「不眠」でも、疲れ切って眠れない人と、興奮して眠れない人では選ばれる処方が変わります。逆に言えば、名前だけで選ぶと効かないことがあるのが漢方薬の特徴です。

心の不調によく使われる漢方薬の一覧

処方名 向いている状態 主な目標症状
補中益気湯(ほちゅうえっきとう) 疲れやすく、気力・食欲が落ちている(気虚) 全身倦怠感、食欲不振、病後や夏の体力低下
抑肝散(よくかんさん) 神経が高ぶって落ち着かない イライラ、易怒性、歯ぎしり、寝つきの悪さ
加味逍遙散(かみしょうようさん) 疲れやすく、精神症状が日によって変動する のぼせ、不安、いらだち、肩こり、月経前の不調
半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう) 気分が沈み、のどのつかえ感がある 咽喉頭異常感、不安感、動悸、吐き気
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) 体力があり、動悸・不眠を伴う 動悸、不眠、イライラ、落ち着かなさ
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう) 体力が低下し、神経過敏になっている 疲れやすさ、神経過敏、寝つきの悪さ
酸棗仁湯(さんそうにんとう) 心身が疲れ切っているのに眠れない 熟眠感のなさ、疲労を伴う不眠
六君子湯(りっくんしとう) 胃腸が弱く、みぞおちがつかえる 食欲不振、胃もたれ、疲れやすさ

いずれも「体力がある/ない」「冷えるか、のぼせるか」といった体質の見立てによって適否が分かれます。自己判断で複数を併用すると、後述する生薬の重複による副作用のリスクが上がるため注意が必要です。

補中益気湯|「すごい」と言われる理由と、期待しすぎない範囲

補中益気湯は、消化吸収の力を補って全身の気力を底上げすることを目的とした処方で、疲労倦怠、食欲不振、病後や術後の体力低下などに用いられます。「飲んだら体が動くようになった」といった体験談が広まりやすい処方ですが、これはもともと気力・体力が落ちている状態(気虚)に合致した場合の反応です。

一方で、体力があってのぼせやすい人、炎症や興奮が前面に出ている人には向きません。効果が実感できない場合、量や期間の問題ではなく処方選択そのものが合っていない可能性があります。

補中益気湯が合わない人

  • 体力が充実していて、のぼせ・ほてりが強い方
  • 高血圧やむくみを指摘されている方(甘草を含むため慎重に)
  • 飲み始めてから胃もたれ、腹部の張り、動悸が出た方

抑肝散|イライラ・神経の高ぶり・寝つきの悪さに

抑肝散は、神経の高ぶりを鎮めることを目的とした処方です。些細なことで怒りっぽくなる、落ち着かない、歯ぎしりをする、寝つきが悪いといった状態が目標になります。緊張が強く筋肉がこわばりやすいタイプにも用いられます。

効果の感じ方には個人差があり、イライラや寝つきについては比較的早く変化を自覚する方もいますが、体質に関わる部分は数週間単位でみていきます。甘草を含むため、長期に飲む場合は後述の偽アルドステロン症に注意が必要です。

六君子湯|胃腸から整えるという考え方

ストレスがかかると真っ先に胃腸にくる、食欲が落ちて体力が落ち、さらに気分が沈む——という悪循環は珍しくありません。六君子湯は胃腸の働きを補うことを主眼にした処方で、食欲不振、胃もたれ、みぞおちのつかえに用いられます。

「六君子湯 自律神経」と検索されることが多い処方ですが、自律神経そのものを直接調整する薬ではありません。胃腸症状を介して全身のコンディションを立て直すという位置づけで考えるのが実際的です。

加味逍遙散|変動する不調と、女性特有の症状に

加味逍遙散は、疲れやすさに加えて、のぼせ・いらだち・不安といった症状が、日によって、あるいは時期によって変動する方に用いられる処方です。特に月経周期に伴って心身の不調が変動する方(月経前の情緒不安定、更年期に伴う症状など)によく使われます。抑肝散が「常に高ぶっている」タイプに向くのに対し、加味逍遙散は「調子の波が大きい」タイプに向くという違いがあります。肩こり・のぼせといった血の巡りに関わる症状を伴うことが多いのも特徴です。甘草に加えて山梔子を含むため、長期服用時は腸間膜静脈硬化症にも注意が必要です。

半夏厚朴湯|のどのつかえ感と気分の落ち込みに

「喉に何かが詰まっているような感じがするのに、耳鼻科で検査をしても異常がない」——これは咽喉頭異常感症と呼ばれる状態で、半夏厚朴湯が用いられる代表的な症状です。中国の古典では「梅核気」とも呼ばれ、喉の違和感と気分の落ち込みが同時に起こることが特徴とされてきました。気分の落ち込みや不安感、動悸、吐き気を伴うこともあり、気の巡りが滞っている状態への処方と位置づけられています。比較的早く、数日から1週間程度で違和感の変化を感じる方もいます。甘草を含まないため、他の処方と比べてむくみ等のリスクが低い点も特徴です。

柴胡加竜骨牡蛎湯|体力があるタイプの動悸・不眠・イライラに

柴胡加竜骨牡蛎湯は、比較的体力があり、精神的な興奮や動悸、不眠、いらだちが前面に出ているタイプに用いられる処方です。ストレスによって神経が高ぶり、心臓がドキドキする、些細なことでカッとなる、寝つきが悪いといった症状に使われます。竜骨・牡蛎という鉱物・貝殻由来の生薬が、高ぶった気持ちを鎮める働きを持つとされています。黄芩を含むため、まれに肝機能障害や間質性肺炎(発熱・空咳・息切れ)に注意が必要です。

桂枝加竜骨牡蛎湯|体力が低下し、神経過敏になっているタイプに

同じ「竜骨牡蛎」を含む処方でも、桂枝加竜骨牡蛎湯は体力が低下し、疲れやすく、神経が過敏になっているタイプに向いています。柴胡加竜骨牡蛎湯が「体力があり興奮が強いタイプ」向けであるのに対し、こちらは「体力がなく、些細な刺激にも敏感に反応してしまうタイプ」向けという、体力による使い分けが明確な処方の組み合わせです。疲れやすさ、神経過敏、寝つきの悪さ、些細なことで動悸がするといった症状に用いられます。

酸棗仁湯|疲れているのに眠れないという矛盾に

「体はくたくたなのに、頭が冴えて眠れない」という状態に用いられるのが酸棗仁湯です。心身の疲労が強いにもかかわらず、寝つきが悪い・眠りが浅い・熟眠感がないといった不眠に用いられます。西洋薬の睡眠薬が脳の機能を鎮静させることで眠りを促すのに対し、酸棗仁湯は消耗した心身のエネルギー(血)を補うことで、自然な眠りを取り戻すという発想に立っています。日中の疲労感を伴う不眠でお悩みの方には、睡眠薬とは異なるアプローチとして選択肢になります。

漢方薬は効果が出るまでどのくらいかかるか

「漢方は長く飲まないと効かない」と言われますが、目標とする症状によって時間軸は変わります。おおよその目安は次のとおりです。

目標とする症状 効果を判断する目安 考え方
吐き気、のどのつかえ感、こむら返りなど 数日〜1週間程度 急性症状に対しては比較的早く反応することがある
イライラ、寝つきの悪さ、食欲不振 2週間〜1か月程度 この時点で変化がなければ処方の見直しを検討する
疲れやすさ、冷え、体質に関わる不調 1〜3か月程度 季節をまたいで評価することもある

いずれの場合も、1か月飲んで何も変化がないなら、漫然と続けるより処方を見直すのが原則です。効き目には個人差があり、すべての方に同じ結果が得られるわけではありません。

副作用と、注意が必要な生薬

「自然由来だから副作用がない」というのは誤りです。漢方薬にも注意すべき副作用があります。

注意する生薬 含まれる主な処方 起こりうる症状
甘草(かんぞう) 補中益気湯、抑肝散、六君子湯、芍薬甘草湯 など多数 偽アルドステロン症(むくみ、血圧上昇、血液中のカリウム低下、脱力感、こむら返り)
黄芩(おうごん) 柴胡加竜骨牡蛎湯、半夏瀉心湯 など 肝機能障害、間質性肺炎(発熱・空咳・息切れ)
麻黄(まおう) 葛根湯、防風通聖散 など 動悸、不眠、血圧上昇、排尿しにくさ
山梔子(さんしし) 加味逍遙散 など 長期服用で腸間膜静脈硬化症(長期の場合は定期的な確認が必要)

とくに甘草は多くの処方に含まれるため、複数の漢方薬を併用すると知らないうちに摂取量が増えます。むくみ、急な体重増加、手足の脱力、血圧上昇に気づいたら中止して相談してください。

こんな方は事前に相談を

  • 妊娠中・授乳中の方、妊娠の可能性がある方
  • 高血圧、心疾患、腎疾患、肝疾患で治療中の方
  • 利尿薬、ステロイド、甲状腺の薬などを服用中の方
  • すでに精神科・心療内科の薬を服用中の方(併用の可否は主治医の確認が必要です)

市販の漢方薬と医療用の漢方薬の違い

同じ名前の処方でも、市販薬(一般用)と医療機関で扱う医療用では、生薬の配合量(エキス量)が異なることがあり、一般に市販薬のほうが少なめに設定されていることがあります。市販薬で手応えがなかった場合、処方が合っていないのではなく量の問題である可能性も考えられます。

また、医療機関で処方する場合は、既往歴や併用薬を確認したうえで選択でき、経過をみて処方を変更できる点が異なります。

漢方薬は保険が使えるのか

医師が保険診療の中で必要と判断して処方する場合、保険が適用される漢方薬があります。一方で、当院のオンライン診療でお渡しする漢方薬は自由診療(自費)となり、公的医療保険は適用されません。費用は【○○円(税込)】です。診察料・送料の有無を含め、注文前に必ずご確認ください。

不調が強いとき、漢方だけで抱え込まない

次のような場合は、漢方薬による調整ではなく、医療機関での診察を優先してください。

  • 2週間以上ほぼ毎日、気分の落ち込みや興味の低下が続いている
  • 眠れない日が続き、日中の仕事や生活に支障が出ている
  • 体重が短期間で大きく減った、食事がほとんど摂れない
  • 消えてしまいたい気持ちがある

これらは体質の問題ではなく、治療の対象となる状態である可能性があります。ためらわずに専門の医療機関にご相談ください。

体質や今の状態に合わせた漢方薬を、オンラインでご相談いただけます。処方は自由診療(自費)です。

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よくある質問

補中益気湯は本当に「すごい」効果がありますか?
疲労倦怠や食欲不振など、気力・体力が落ちている状態に合致した場合には体調の変化を実感される方がいます。ただし体力が充実していてのぼせやすい方には向かず、すべての方に同じ効果が出るわけではありません。1か月ほど服用して変化がない場合は処方の見直しを検討してください。
漢方薬は効果が出るまでどのくらいかかりますか?
目標とする症状によって異なります。吐き気やのどのつかえ感などは数日から1週間程度で反応することがありますが、イライラや寝つきの悪さは2週間から1か月、疲れやすさや冷えなど体質に関わる不調は1〜3か月を目安に判断します。
抑肝散と加味逍遙散はどう使い分けますか?
抑肝散は神経の高ぶりやイライラ、易怒性が前面に出ている場合に、加味逍遙散は疲れやすさに加えてのぼせや不安があり、症状が日によって変動する場合に用いられることが多い処方です。体力や冷えの有無を含めて医師が判断します。
漢方薬に副作用はありますか?
あります。多くの処方に含まれる甘草では、むくみ・血圧上昇・カリウム低下などの偽アルドステロン症が起こることがあります。ほかに黄芩による肝機能障害や間質性肺炎、麻黄による動悸などが知られています。むくみや急な体重増加、手足の脱力、発熱を伴う空咳が出た場合は服用を中止してご相談ください。
市販の漢方薬と医療機関の漢方薬は何が違いますか?
同じ名前の処方でも配合されている生薬の量が異なることがあり、一般に市販薬のほうが少なめに設定されている場合があります。また医療機関では既往歴や併用薬を確認したうえで処方を選び、経過に応じて変更できる点が異なります。
今飲んでいる心療内科の薬と一緒に飲めますか?
自己判断での併用は避けてください。処方の内容によっては問題ない場合もありますが、生薬の重複や相互作用の可能性があるため、必ず現在の処方内容をお伝えいただき、主治医にもご確認ください。
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